『外資系金融の終わり』を読んだ感想

藤沢数希氏がの著書『外資系金融の終わり』を読んだので、概要と自分が感じたことをまとめようと思う。

 

その前に、まずは藤沢数希氏について簡単に紹介しよう。

 

彼は在学時代、欧米の研究機関にて理論物理学の分野で博士号を取得。科学者として多数の学術論文を発表したが、新卒では外資投資銀行に就職し、マーケットの定量分析やトレーディングなどに従事。また、彼のブログ「金融日記」は月間100万PVを超えるアクセスを集め、マルチに活躍する人材である。

 

本作では、外資投資銀行のトレーダーとして大半のキャリアを歩んできた彼が、内部から見た外資系金融機関の矛盾や未来についてを赤裸々に語った内容となっている。

 

 

この本では、外資系金融機関が時代とともにどのような変遷をたどっており、将来的には既存の体制を変えることが必要不可欠であるという趣旨である。

 

まず、以前の外資系金融機関は、世界中からタレントを集め、従業員は周囲から羨望を集める存在だったという。ゴールドマンサックスなどのトップティアバンクでは平均年収が7000万円を超えるなど、従業員に莫大な報酬を支払ってきた。

 

一部のトレーダーは、サラリーマンという立場でありながら年間数億円から数十億円のボーナスを受け取っていたし、トップマネジメントも数十億円の報酬を受け取っていた。

 

東京オフィスでも、大学卒業後数年しか働いていない20代の普通のサラリーマンが年収3000~4000万でヘッドハントされることはよくあったという。

 

しかし、2008年のリーマンショックをきっかけにこの状況は変わった。アメリカの大手投資銀行が、負債総額64兆円という未曽有の金額で破産したのだ。

 

リーマンショックという名前を聞いたことがない人はいないだろうが、詳しい内容を知っている人は少ないのではないかと思う。

 

リーマンショックは、サブプライムローンと呼ばれる低所得者向けの住宅ローンが大きく関係している。住宅ローンはご存知の方も多いと思うが、庶民が自分で買う住宅を担保に入れて、金融機関からお金を借りることである。債権者には月々の返済に加えて利息が収入として入ってくる。

 

この住宅ローンの返済によるキャッシュフローをまとめて住宅ローン担保証券モーゲージ債)が作られた。しかし、これは普通に住宅ローンを借りられない低所得者に向けたものであり、中身はゴミに等しかった。それを格付け会社が「AAA」などアメリカ国債並みの格付けを行って売りさばかれた。

 

残ったゴミのようなモーゲージ債をさらに混ぜ合わせてAAAの格付けを再び行い、それでも売れ残ったらさらに同じことを繰り返す。複数のモーゲージ債が束ねられていて、なんとなくリスクが分散されているように見えるのだ。

 

このような複雑な商品を、世界中の機関投資家が良くわけもわからないまま買った。見たこともないアメリカの低所得者が家を買うために、莫大な金を貸し付けたことになる。

 

リーマンショックをきっかけに、リーマンブラザーズ以外にも多くの外資系金融機関が危機に陥った。しかし、他の企業はつぶれなかった。これには外資系金融の「大きすぎてつぶせない」性質が深くかかわっている。

 

小国のGDPを超えるような時価総額を持つ外資系金融機関は、もし潰れたら関わっている国の経済システムを破綻させることにもなる。だから、もし潰れそうになっても国が税金を使って救済するのである。

 

実際、リーマンショック時にはAIGという保険会社も同時に潰れそうになったが、17兆円もの税金が投入されて破産を免れた。

 

彼らはリスクを取って大きな取引をするほど巨額のボーナスを受け取ることができ、なおかつリスクを取って失敗しても国が莫大な公的資金を使って救済してくれるので、ローリスクハイリターンの取引が可能になる。

 

従業員にとってのリスクは所詮クビになるだけで、転職先はいくらでもある。現に、リーマンブラザーズは破綻したが、中にいた従業員は野村証券などから億単位の年収でオファーを受けていた。

 

この「大きすぎてつぶせない」構造が納税者を困窮させる結果につながり、変革が求められると筆者は主張している。

 

これについて、解決方法は2つあると筆者は主張している。

 

まず一つ目は、金融機関の機能を徹底的に分離することである。例えば、投資銀行部門と株式調査部などは本来同じ会社に存在してはいけない。株式調査は企業の分析結果を投資家に公表する役目を持ち、投資銀行部門はクライアントが企業や機関投資家である。

 

株式調査部のレポートは株価にも影響を与えるので、同じ会社の投資銀行部門のクライアントを低い評価にするといかんせん感じが悪い。よって、投資銀行部門のクライアントからは良いレポートを出すようにと圧力がかかり、適当なレポートが仕上がる。

 

二つの部署間には情報隔壁があるものの、同じ会社に存在する必要はないと筆者は言う。これらの機能を分割することで、一つの会社の役割を減らして税金での救済が不要にすべきであるとしている。

 

2つ目の解決策としては、政府の規制、監査当局に厳しく監視され、従業員を公務員化すべきであるということだ。

 

成果報酬型の今のモデルでは、大きなリスクを取り続けて莫大なボーナスを得て、潰れそうになったら税金で救済されるという現実がある。クビ以上のリスクがない以上、公務員のように定額で従業員で雇い、インセンティブ構造を変える必要があると考えられる。

 

よって、無数のヘッジファンドや個人経営のブティック投資銀行が大きなリスクを分散して持つことが大切であると筆者は主張しているのだ。

 

 

この本を読んで、私が感じたことは主に二つある。

 

一つ目は、関わるコミュニティによって常識は変わるということである。筆者は初任給1000万越え、現在の年収は5000万越えで、年収2000万の人を薄給などと言っていて、正直次元が違いすぎる。(笑)

 

しかし、外銀マンにとってこれは常識であり、そうゆう世界にいるだけなのである。

 

関わるコミュニティによって、自分の常識も決まってしまう。自分の親しい人5人思い浮かべたらその5人の平均が自分とよく言われるように、なるべく次元の高い環境に身を置くことは大切なのかもしれない。

 

2つ目に、自分の経済に対する知識のなさを痛感した。投資銀行、証券会社、銀行、ヘッジファンドの違いなど、「知っていたつもり」で知らなかったことが数多くあることを知った。

 

文系なのに一体何を学んでいたんだ。。

 

これを機に、経済情報について敏感になろうと思った。

 

具体的なアクションプランとして、Voicyというラジオアプリの「昨日の経済を毎朝5分で!」というチャンネルを聞き始めた。朝の駅までの徒歩の時間に聞けるので、時間がない人にもおすすめである。

 

 

それにしても平均年収7000万円はすごい、、

 

 

外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々

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